水面下

言い訳と記録 @underwaterilies

汝、隣人を愛せよ🌙

このところ『美少女戦士セーラームーン』の初期シーズンをアマゾンプライムで見返していた。この時期は無印と言われ、この後のシーズンの末尾にRやSなどがつくのでそう呼ばれるらしい。無印はちょうど生まれた頃くらいの作品なのでイマイチ知らなかった部分も多く、絵柄も雰囲気もレトロかわいいこともあって楽しく1シーズン分見終わった。終盤が評判の鬱展開でこれを乗り越えた現役女児に慄きつつも、すっかりハマって続きのRを観たい、とプライム内を探すと劇場版があった。まあたぶん続きだろうと思って観たら、アニメがどうやら先だったらしく当然のように無印には登場しなかったちびうさが出ていた。ちょっとショック。とかそんなことはどうでも良くて。

この劇場版Rで泣いてしまった。ぼろぼろと。まさかとは思ったけれど本当に泣いてしまった。

無印シーズンを通して、正直言うと主人公のセーラームーンであるうさぎにイラッとすることが多かった。だって本当に何もできないのだ。マーキュリーの亜美ちゃんみたいに勉強が良くできて知性があるわけでもなく、マーズであるレイちゃんみたいに家の神社を守り勇ましさを持つのでもなく、ジュピターことまこちゃんみたいにシンプルに強くてまた家庭的な面も備えているわけでもなく、ヴィーナスの美奈子ちゃんみたいに正義の戦士としての心意気や実績があるわけでもない。実生活でもセーラー戦士としても、本当に何も特筆するところのない、普通の女の子なのだ。どこにでもいる女の子、それに対して仲間の戦士たちは揃いも揃ってスーパー中学生なものだから、また何だかうさぎが情けなく見えてくる。

シーズンの終盤、クライマックスでも

「もう戦いたくない!」(これは何度も言う)

「もうやめて帰ろうよ!」(敵のアジトに乗り込んだ時)

「銀水晶なんてあげちゃおう!もう皆んなが傷つくの嫌なの!」(あげると地球は滅びる、セーラー戦士は1人死亡済み)

と、地球を救う正義に燃える仲間の横でまるで駄々っ子で、(なーんでこんなキャラクターの子、主人公にしちゃったんだろ)とぼーっと考えながら少しイラつきながら観ていた。思い返せば昔から憧れるのは美しくて強く戦う仲間の女の子の方で、ごねる割には美味しいとこだけ持っていくうさぎには、(なんだかなあ、プリンセスだからってね。)なんて考えてしまっていた。

それがこの劇場版Rで全く改まってしまった。今まで気づかなかったし、考えもしなかったこと。自分の浅慮さに少し恥ずかしささえ覚えた。

それは、スーパー中学生な女の子だって、ただの女の子であり、輝きの影には孤独や偏見が存在するということ。それは持たざる者には理解できないこと。けれども、理解などできなくとも笑い合うことは許されるのだということ。普通じゃないこと、特別であることは素晴らしい、でもそれには努力や我慢や誤解が付きもので、その中で平気そうに笑ってみせるのは酷く難しい。一度与えられた役割からは中々抜け出すことはできない。だから戦うしかない。がんばるしかない。

けれど、そんな特別な一面を持ちながらも、うさぎの側では普通の女の子で居られるのだ。亜美ちゃんは勉強しなくてもいいし、レイちゃんはお家のことを考えなくてもいいし、まこちゃんは女の子らしく振舞っていいし、美奈子ちゃんは正義の味方じゃなく友達としてなんでも話していい。うさぎは友達に何の役割も求めない。そのままで、頑張らない彼女たちのままに笑いかけるのだ。遊ぼうよ!おしゃべりしようよ!恋をしようよ!大好きだよ!と。子供たち、頑張らなくていいんだ。何者かになろうとしなくったっていい。おしゃべりしてアイスクリーム食べて恋をして友情を深めて、それでいいんだ、と。女の子の、いや全ての子供の頑張らない時間を肯定してくれる存在がうさぎなんだと思う。

そしてうさぎはいつも友達や家族や好きな人を守りたがる。正義とか地球とか平和とか、そんな大きなものは友情や愛の前には敵わない。それはある意味では正しくないし弱さかもしれない。けれどある意味では真理であり強さだと思う。

うさぎに限ってはセーラー戦士なので戦わねばならないときが来る。けれども私達はセーラー戦士ではないので、変身して幻の銀水晶で地球を守ることはできないので、なので、隣の、友や家族や恋人を抱きしめなければならない。

ひとりひとりが抱きしめ合い、手を繋いで、笑いあって、それが連なって連なって連なれば、行きつく先は平和だから。

この世界で私が手をとれない相手は他の誰かが手をとってくれるので争う必要も戦う必要もない。私はキリスト教徒でもなく、宗教に関する知識も乏しいし、キリストの言ったことにはすでに時代錯誤なこともあるとは思うが、「汝、隣人を愛せよ」の言葉は真理であると思う。

セーラームーンは間違いなく名作だ。私の周りの男の子は攻撃的な子が多かったし多いけど、それはセーラームーン見てなかったからじゃない?って思うほど優しさに満ちた、優しさを学べるものだと感じる。全児童必修アニメではないですか?

そしてその物語は子どもを甘く見ていないので、子どもに思考を与えてくれると思う。あのアニメが出した宿題を子ども達は懸命に受け取り、噛み砕き、理解しようとするだろう。あの頃の私が見ていたらどんな気持ちになっただろうか。子どもの感性で見てみたかった。

何かが出来ることは素晴らしいけれど、何もできなくたってあなたは主人公だとうさぎが教えてくれるし、

誰かに立ち向かうのではなく、誰かを抱きしめることの正しさを、教えてくれる。

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