想いという呪い
呪術廻戦に大ハマりしています。
夏油傑と五条悟の関係に胸を掻きむしる日々で、本誌のほうでは生徒と五条の関係に胸を痛めています。
本誌の五条の一件で、五条悟への解像度がぶわっと上がって本当に好きになってしまったのですが
私は五条に入れ込んだ理由が少しあって、
同性に強い強い気持ちを抱いたこと、きいてくれますか。
先んじて言っておくと、私は異性愛者で、彼女のことは恋愛として好きだと思ったことは一度もありません。好きな男の子もその時居ました。
だけどこれほど、人を愛せるのだと、初めて知った相手です。
そして、彼女も私を唯一だと言っていました。
これ、思い込みじゃないです。ほんとにほんと。
彼女のためにどこまでできるかな、と当時考えたとき
彼女のために人は殺せないけれど、彼女が人を殺してしまった時は全力で隠蔽に協力しようと思う、と本人に話しました。彼女は嬉しそうに笑っていました。
この人はこの世界にたったひとりだけ、代わりなんて誰もいない
そういう想いって憧憬みたいな、執着みたいな、羨望であり、光であり、慈しみ愛する喜びだけれど、そこには悲しみもあって
自分とあまりに違うから、その人は光なのであり
それ故に決してひとつになることはできない
あなたと私はあまりに遠い。それが愛しくて、悲しい。
そんな思いを抱えて、彼女と一緒にいました。
馬鹿みたいな冗談を言い合って、定番のノリを作って、ほかの人には聞かせられない自惚れた話なんてして、誰よりも自分自身を明け渡した相手だったけれど、そんな相手だからこそ
あなたにどれほどの想いを抱えているか、というのを滔々と語るのは難しかった。恥ずかしかった。
けれど言葉の端々には忍ばせて伝えていました。
あなたみたいな人は他にはどこにもいない。特別だよ、と。
それを聞いて嬉しそうにする顔が大好きで
私が彼女を見つめる眼差しがあまりにも愛しげなのは彼女にもバレていて、「私のこと生んだの?」と笑われるほどで
私は彼女を誰よりも理解していた自信があったし、誰よりも彼女に自分を語っていたと思います。
けれど、その人に、私は必要無くなったのだと、私の声は届かなくなったのだと、わかった瞬間がきてしまいました。
物理的な距離ができて、以前ほど一緒にはいなくなって、それでも私の想いは変わってないつもりで
彼女からその話を聞いた時、もうすでに手遅れで、確実に彼女が傷ついているのがわかりました。
言葉を尽くして、涙も浮かべて止めるよう訴えたけど
彼女の考えを覆すことはできなくて
でも、私が惹かれた彼女の生来の清さや芯の正しさがあるから、彼女自身の間違いで、彼女は苦しんでいました。
彼女もそれがわかっていたけれど、もう止まれない、そういうことだった。
私はその夜、声のない慟哭があることを知りました。
私が光と見据えたものが、暗闇に呑まれた心地がしました。
でもこうやって、彼女が間違えて初めて、私は彼女が人間であることを知ったのかもしれないと今は思います。
光の中で生きる美しい生命体などではなく、間違い、苦しみ、息をする人間なのだとようやくわかった。
その愚かさも彼女なのだと飲み込むのは、割と時間を要しました。
彼女を光だと思っていた時は、彼女に殺されても、人生を捧げてもいいと思っていた。けれど、きっと彼女を殺すなんてこと出来なかった。
五条と夏油を見ていると、あの時の強い気持ちが胸をくすぐる感覚がして
私は彼女が光だったので、五条が夏油に向ける唯一無二への眼差しがなんとなくわかる気がします。
あの光を失えば、真っ暗闇に放り出される気がして、殺すなんて、恐ろしくて、とても出来ない。
夏油が間違えて、多くの非術師が死ぬという事実よりか、あの優しさで彼自身が彼を傷つけて苦しめるであろう方向に行くことが間違いだと感じたのではないかな。
その時初めて、夏油傑という人は正しい善悪の指針なだけではない、愚かで守るべき人間なのだと知り、時間をかけて理解したのではないでしょうか。
でも、どんなに噛み砕いて自分を納得させても、唯一だと思った相手を手にかけたこと
私はとてもとても苦しくて辛い気持ちがすると思います。
どこかで生きていてくれたら二度と会えなくてもいい、と
死に分たれてもう二度と会えないということは違う。
自らの手で引導を渡したなら、それはいかほどの苦しみか、と胸を引き裂かれる思いです。
私は彼女に劣等感も抱いていたので、夏油の気持ちもなんとなくわかるような気もしていて
憧れても決して彼のようにはなれない。生まれ持ったものが違いすぎるから。
だけどそんな人に唯一と思ってもらえる嬉しさ、誇らしさ、自己を肯定される感覚
自分自身が思っているより深いところにその存在は根を張って、自らを支えてくれる心地がするんです。
そんな人に置いて行かれたような、必要とされなくなったとき、それは絶望に近い。
夏油の生きる世は地獄で、自分の届かなかったものが繰り返し、繰り返し頭の中で自分を苛む。
深いところに根を張ったものに、拒絶されたら、弱いと断ぜられたら、それこそ自分が決定的に壊れてしまうとわかっている。
だから、1番大切なひとには自分の醜い部分なんて話せないのです。
今思い返せば彼女も話してくれた時、ひどく怯えていました。
嫌いにならないで、嫌いにならないでねと
何度も何度も前置きして
私に打ち明けてくれました。
彼女は私に話してくれた時、私にそれを否定して欲しかった、けれどそれを自分で止めることが出来なかった。そんな状態だったのかもしれません。
これで嫌いになんてならないよ、と私は伝えたけれど
これ以上苦しまないで、という私の声が届かないのがとてもとても、悲しかった。
タイミングと形は違えど、お互いにとって別離は絶望だったと思います。
五条は夏油の大事なものを守る為に地獄を生き抜きたいという優しさに置いて行かれて
夏油は五条の呪術への探求で地獄を生き抜く才能に置いて行かれて
心の一等柔い部分をこの人になら捧げられる、捧げてもらえると思った相手に、置いて行かれて。
けれども、絶望の中にいても、記憶はなかったことにはならないんです。
あの時の楽しくて優しくて特別な思い出
あの人に向けた、世界でいちばん特別な思い
私があなたに全てを捧げた、あの日々は今も私を形作っている。
こんなにも誰かを大切に思えるんだと、知ることができた日々が確かにあること
夏油は知らないかもしれないけれど、いつだって何度も何度も、あの日々が五条の背中を叩いたと思います。
誰かの生き様が、人の考えを、景色を、人生を変える
その人が居なくなっても、どんな終わり方をしても、その人がどう生きて、何を語ったのかは変えようもなく、今生きている人の背中を押し続ける。
人ひとりが生きる、ということがどれほど尊く、その人を大切に思う人の中に残り続けるのか
呪術廻戦を読んでいると、それをじっと見つめさせられている気がします。
それは綺麗なだけではないので、ある種の呪いと言えるのかもしれないけれど
解きたくない呪いもこの世にはあるから、この世は地獄でも美しい瞬間があるのかもしれません。